七十二候の中にはその季節感を象徴する食べ物や、穀物、生物まで様々な言葉が含まれています。
中国から輸入した七十二候をいかに日本独自のものにするかということに、時代の流れの中で人々は考えてきたのでしょう。
その中で初夏を表す季語としての七十二候が、第二十四候の麦秋至という表現です。
文字だけを見ると秋の季語なのでは?と思いますが、実は初夏を表現しているのですね。ですが一体どのような意味があり、初夏を説明しているのでしょうか?こちらでは麦秋至の意味やその時期の象徴するものをご紹介しながら、初夏の魅力をまとめていきます。
麦秋至の読み方を攻略
72もの言葉がある七十二候ですが、その中の第二十四候である麦秋至。
まずは読み方を知らないと、七十二候の話をすることはできないですよね。
こちらの読み片は、「むぎのときいたる」と読みます。
麦秋至と書いてむぎのときいたる、と読むことはとても不思議ですよね。
まず七十二候の読み方について、基本的なことをお話しします。
七十二候を読みこなすコツは漢文的な読み方で、文章にすることです。これはもともと中国から伝わって来たということが関係しており、漢文の読み方を模倣している、またその影響をそのまま受けていると考えるのが自然ですね。
さらに読み方だけではなく、書き方も特徴的です。
日本の読み方だと間にカナを入れて文章を読むことになりますが、漢文はレ点を入れて下から上に戻るように読むのが特徴なのです。それを全て略して何も書かず、文章として成立させるのが七十二項の読み方なのです。
そう考えるととても難しく思えてしまい自分には読み方をマスターできないと思うかもしれませんが、覚えてしまうと意外にも簡単に読むことができるので、繊細な季節を理解することができるでしょう。
また不思議なのは、その書き方にも言える事です。
初夏のことを表現しているわけですので、「秋」を入れていることに疑問がわきませんか?読み方だけをとるなら、麦時至でもよさそうなもの。初夏のころの季語を表現しているというのに、「秋」は少し爽やかさに欠ける部分もありますよね。
なぜこの第二十四候は麦秋至というのでしょうか?
麦秋至の意味を作るのは、「秋」という言葉がキーポイント!
麦秋至の詳細の時期ですが、5月31日から6月4日頃までを指します。
まさに新緑が眩しい頃でもあり、これから梅雨に入るかどうかという時期ですよね。
そこで秋という季節を使ったのは、四季の中の「秋」という意味ではなく、「収穫」という意味で秋を使っているのです。麦秋とは、麦の収穫時期のことを指しているということになります。実は麦は冬に種を撒き、ちょうど6月初頭頃から収穫時期になるのです。
それに対し小麦は6月中旬ころ、麦の次に収穫を始めます。どちらにしても6月は、主要な穀物の収穫にあたるので、昔の農家にとっては特に一大イベントであったのでしょう。
今でこそ季節感関係なく、色々な種類の穀物を簡単に手に入れることができるようになっていますが、昔はそうはいきませんでした。しかも穀物は主食としても大事なものですし、この初夏の麦秋は生命を支える大事な時期であったということでしょう。だからこそ麦秋の時期が来たということは、人々の喜びであったのです。それを初夏の時期の季語とすることで、豊作を願うと共にやっと来た初夏に有難みを感じているのかもしれませんね。
麦秋至を俳句にいれたい!その使い方とは?
麦秋至という時期は、昔から初夏に入る頃として注目されていました。
しかもそろそろ梅雨に入るという特別な時期でもあり、農家にとっては良い面でも悪い面でも畑が気になる時ということになります。
そんな麦秋至ですが、実はかの有名な俳句家の人々も季語として使っているのです。もしも今俳句などを作りたいという時には、この季語を使った俳句を参考に自分でも作ってみましょう。
例えばこんな俳句があります。
麦秋や・子を負いながら・いはし売
これは小林一茶が詠んだ俳句です。
これは麦秋とは読まず、むぎあきと読み、またいはし売とは、いわし売りのことを指しています。この俳句は、初夏の農道を金色に輝く麦の穂を横目に見ながら、子を背負っていわしを売り歩いているという意味を表しています。これを見るとそこまで感じないかもしれませんが、実際にはとても悲壮感のある俳句なのです。
麦秋の時期に、母親が子を背負いながらなんとかいわしが売れないかと、必死になっているということでしょう。この使い方は初夏の美しい季節と、いわし売りの女性を対比させて生活に困窮しているという、いわゆる「生活苦を」表現していると解釈をしても良いかもしれませんね。
麦秋は麦が金色になり、美しいさまを表現しているという意味での使い方をされることが多いのですがこのように美しさと苦労の日常を比較して、初夏の風景をまるで見ているかのように浮かばせるのもまさにプロの技と言えますね。
麦秋に因んで作られた他の言葉は?
麦秋とは麦の収穫時期でした。
つまり実際の季節は初夏でありつつも、収穫の代表季節である「秋」を使い麦にとっての秋であるという意味で使われています。それだけ麦秋は印象的な季語であるといえるのですが、実は他にもこの「麦」という単語を使って作り出された言葉があります。
まずは「麦風」、これは麦秋の頃に強く吹く風のことを言うのですが、この時期にびゅーんと吹き抜ける強い風は金色になった麦の穂を大きく揺らし、さぞ綺麗であることでしょう。もしかしたら麦風と言う言葉は後から付いたのかもしれませんが、麦の穂がさわさわと揺れる様は幻想的ですよね。
またこの麦秋の時期に降る雨を、麦雨といいます。麦雨とは梅雨のことを指すのですが、時期的に麦の収穫時期にぴったり降る雨ですからそう呼ばれるようになったのですね。
実は梅雨の時期に、麦はとてもよく育つと言われているのです。
麦にとって雨は天の恵みであり、どんどん成長させる命の水であるということなのでしょう。梅雨と聞くとじめっとした嫌なイメージがありますが、麦雨と聞くと雨に光る金色の穂を連想させ幻想的であるともいえます。
同じ季節を表現する言葉でもその時々で色々な別名がありますが、それがあるからこそ日本語を理解するのが楽しいともいえますね。
麦秋の時期には琵琶が美味しい!
麦秋至の時期になるとスーパーなどで見かける旬の果物が、琵琶です。
琵琶は千葉県の房総半島などで良く食べられる、橙色の甘い果実のこと。長崎県などの九州でも栽培されていますので、比較的全国で出回る果物であるでしょう。ただ全体的には数が凄く多いというわけではなく、いつも店頭にたくさん並んでいる果物というわけではありません。
琵琶もまた中国からはいって来た果物であり、江戸時代以降に日本でも栽培されるようになっていきます。
基本的に琵琶は暖かい気候で育つため、九州や千葉県の南側ではないと育てることはできません。加工品でも人気がありますが、琵琶の加工品の代表といえばゼリーですね。まるまる一個そのまま皮を剥いた琵琶をゼリーにそのまま入れて、販売している商品はとても人気があります。房総半島などに出かけると、売店や道の駅のあらゆるところに琵琶を使った菓子や加工品が並び、その人気は現地の人だけではなく観光客にも絶大な支持をされています。
麦秋至には麦や小麦だけではない収穫もできるのですが、おそらく琵琶は全国的に栽培がなかったことで七十二候には入らなかったのかもしれませんね。
まとめ
こちらでは麦秋至に関する内容や意味、また俳句などでの使い方をご説明してきました。麦秋至と書くことで初夏の季語であるのに、なぜ「秋」という言葉が入ったのか。
その真意の程は、やはり麦を収穫するということが日本の農家にとっての重要項目だったからとも考えられます。それ以外には麦が、日本の食事の中で主要穀物として認識があったからともいえるでしょう。
いずれにしても金色の麦の穂が揺れるこの時期は、想像するだけでとても美しい風景ですよね。
今年の初夏は麦秋至を意識して、幻想的な世界を体感してみてください。