春めいてくると、スーパーや魚屋の店頭で「初鰹」という文字を目にする機会が増えます。
でも、鰹というと、何となく一年中目にしている気もして、旬がいつなのか?初物が出回るのがいつなのか?それ以外の時期のものと何が違うのか?良く分からないという人も多いのではないでしょうか。
ここでは、そんな初鰹について詳しくご紹介します。
初鰹とは?一体どんなもの?
鰹(かつお)は、水温が上昇する春から初夏にかけて黒潮に乗って三陸沖辺りまで北上し、秋の水温低下と共に再び南下を始める魚です。
初鰹とは、鰹が北上している春(3月頃~5月頃)に水揚げされるものをいいます。初鰹は引き締まった赤身が多く、あっさりとした味わいが特徴です。まだ脂が乗っていないため、少し血生臭さが残り、この刺身を苦手とする人もいます。そのため、ショウガやにんにく、ネギなどの薬味と共に食べられています。
初物を食べると長生きできると言われているため、春になると初鰹を待ち望む人も多いものです。生臭さを感じさせない美味しい食べ方もたくさん有りますので、お店で見掛けた際には試してみても良いかも知れません。
初鰹と戻り鰹の違いは?
鰹の旬は一年に2回あります。その水揚げ 時期により呼び名が異なるのです。
4月から6月頃まで三陸沖に向かい太平洋を北上する鰹を「初鰹」、9月頃からフィリピン沖を目指して南下を始めるのが「戻り鰹」と呼ばれています。
春に北上する初鰹は、前述のように身が引き締まってさっぱりとした味わいが特徴ですが、秋に南下する戻り鰹は、エサであるイワシを沢山食べていますし、秋になり水温が下がるので、身に脂を蓄えているのです。そのため、脂が乗りとろける美味しさで「とろ鰹」と表されることもあります。
初鰹と戻り鰹では、同じ魚とは思えないくらいの味の違いが楽しめます。
初鰹は高知が有名!それは何故?
初鰹というと、全国的に有名なのが四国地方の高知県です。
「鰹といえば高知県」と広く認識されていますが、それは何故なのでしょうか?
高知県は鰹の漁場に近く、他の地域よりも新鮮な状態での鰹が多く手に入ります。また、高知では古くから一本釣りをメインに行っており、魚に必要以上の傷が付き辛く鮮度が保てるといわれています。一本釣りで素早く釣り上げ、即冷凍するため、味にも大きな差が出るのです。
高知の名物は「土佐造り」と呼ばれる鰹のたたきです。わら焼きで炙り、鰹のたたきを作っているため、香りが良く、旨味が閉じ込められています。鰹をわらで燻すようになったのには、様々な理由・説が考えられます。かつお節を作る段階で偶然できたという説や、刺身を禁止されていた時代に、一見焼き魚と誤魔化すために作られた説、魚の皮の中に居る寄生虫を炙ることで駆除する説、憧れのビフテキを真似た説などです。
鰹のたたきと聞くと、ポン酢やしょうが醤油、ニンニク醤油で食べるイメージを持つ人が多いと思いますが、本場の高知では塩で食べるのがメジャーです。塩とにんにく、わさびなどで食べます。高知で鰹を食べる機会があれば、是非この塩たたきを試してみて下さい。
鰹は有名な俳句にも使用されている
「目には青葉 山郭公(ホトトギス) 初鰹」というのは有名な俳句で、「美しい青葉、ホトトギスの声、美味しい初鰹」という初夏の様子を表わすものです。この句は、江戸時代に俳人の山口素堂という人が詠みました。青葉、ホトトギス、初鰹と季語が3つも入るという珍しい俳句ですが、非常に分かりやすく、まさに初鰹を食べたい気分にさせる俳句です。
また、「鎌倉を 生きて出てけむ 初鰹」とは、かの有名な松尾芭蕉が詠んだ俳句です。これは、初鰹の漁場である鎌倉で詠まれた句であるといわれています。鎌倉で水揚げされた新鮮な鰹が、生きたままの状態で各地に出荷されていく様子が分かります。
その他にも、初鰹が詠まれた俳句はいくつもあります。
有名な俳人が詠んだ句では以下のものがあります。
「大江戸や 犬もありつく 初鰹」 小林一茶
「一日は 都の水や はつ松魚」 正岡子規
尚、初鰹というのは、初夏~夏の季語とされています。
初鰹のことわざもある!
初鰹には、江戸時代から伝わることわざもあります。
「初鰹は、女房を質に入れてでも食え」というものです。
なぜ女房を質に入れる必要があるのか?と不思議に思うかも知れませんが、昔は初鰹が高級魚で庶民には手が届かないものでした。現在の価格にして一尾およそ20万円とも言われているくらいです。栄養価が高く、美味しい魚なので、様々なシーンで重宝されていたのですが、釣り上げから保存・輸送に手間がかかるので高価にならざるを得なかったのでしょう。
そのため、東京近郊で釣り上げられた鰹のほとんどが吉原の地で小判に囲まれ売買されていたのです。実際に女房を質に入れてまで鰹を手に入れようという人は居ないでしょうけれども、そのくらい価値のある魚だったことが分かります。
鰹が松魚と呼ばれるのは何故?
松魚(しょうぎょ)と書いて鰹(かつお)と読みます。
何故、松魚と書くのでしょうか?それは、鰹の切り口が松の年輪のように見えるからです。そもそも、鎌倉時代頃まで、鰹は傷みやすい魚とされ、干して固くしてから食べられていました。かつおが魚へんに固いと書くのはこのためです。干した鰹の節や切り口が松のようだということからこの名前になったのです。
日本では、結納の際に「松魚料」というものを贈ります。昔は魚そのものを贈っていましたが、現代では「勝男武士(鰹節)」や現金を贈ります。
尚、初鰹は初松魚とも書かれています。
鰹の旬はどの時期?良い鰹の見分け方は?
初鰹が捕れ始めるのは、九州地方で3~4月、本州では4~6月頃で、南から旬を迎えます。
鰹は旬の時期以外にも水揚げされますが、味が良いのはやはり旬の時期に捕れた物になります。更に、魚自体が新鮮なものを選ぶととても美味しくいただけます。
より良い鰹の見分け方ですが、丸ごと一匹を買う場合、身が丸々していて、縞模様の濃いもの、エラが赤いもの、目がすんでいるものを選ぶようにします。鰹は死んだ直後から縞模様が濃く出て、時間が経つと共に薄くなっていきます。エラも朱色に近い色から黒い赤に変わっていきます。
捌かれた状態(切り身など)で買う場合は、切ったところが虹色に輝いているものは避けます。鮮度が落ちたものは虹色に見えるのです。また、血合いなどが黒っぽく変色しているものは避けましょう。鰹の身は鮮度が落ちると身の弾力が弱くなって来ます。もしも触れるのであれば、少し触ってみても良いかも知れません。
初鰹の栄養素とオススメレシピは?
初鰹のプリプリとした赤身には、鉄分、ビタミンB12、タウリン、イノシン酸、ナイアシンなどが多く含まれています。中でも、ビタミンB12は、身体の中で赤血球を作り出してくれる大切な栄養素です。それに合わせて鉄分も豊富に含まれていますので、貧血症状などで悩む人には効果的な食べ物でしょう。疲労回復に役立つアミノ酸も豊富に含まれています。
日本近郊で鰹が捕れるのは、夏の暑い時期を挟みます。夏には疲労を感じたり、貧血を起こしやすくなる人も多いため、鰹を食べて予防をしても良いのかも知れません。
また、鰹の栄養素には血中コレステロールを下げる効果のあるタウリンを含みます。魚ですので、動脈硬化予防に効果的なDHAやEPAも豊富に含まれています。
初鰹をより美味しく食べるにはどんな調理法が良いのでしょうか。
鰹は、刺身で食べても非常に美味しいものですが、鰹のたたきのように、少し火を通しても非常に美味しくいただけます。例えば、鰹のステーキ、鰹のとんかつ風揚げ物では、なるべくサッと火を通し、半生の状態にしても絶品です。少し鮮度が落ちたものは、炊き込みご飯にすると良いでしょう。しっかり火を通すと、ボリュームのある食べ応えとなります。
まとめ
鰹は1年に2度も旬を迎える魚です。初春から初夏にかけて、日本近郊で水揚げされるのが「初鰹」、晩夏から初秋にかけて水揚げされるのが「戻り鰹」と呼ばれます。
初鰹と戻り鰹では味わいも大きく異なり、まるで違う魚を食べているような感覚になります。漁場に行けば一年中水揚げされている鰹ですが、初物である初鰹は栄養価も高く美味しいため、昔から高級魚として親しまれてきました。俳句やことわざにも良く登場し、人々の食生活を支えて来たことが伺えます。
初物を食べると寿命が延びるとも言われていますので、初鰹を食べて元気に過ごしましょう。