「款冬華」、この言葉を知っていますか?
これに見覚えがなくても、きっと知っている人が多いはずです。
早春を代表する山菜のことですが、苦味があるため、子どもや若い人はあまり食べないかも知れませんね。
款冬華は、早春にこの山菜が生えてくることを表すと同時に、季節の変化を表す言葉になっています。
今回は款冬華の読み方と意味、そして使い方について解説して行きます。
なぜ苦味のある山菜を喜んで食べる人がいるのかについても、説明してみたいと思います。
「款冬華」の読み方と意味!款冬ってあの山菜だった!
款冬華は二十四節気、七十二候の70番目、大寒の初候に当たります。
現在の暦では1月20日頃から24日頃までを指します。
大寒ですから、一年で最も寒い時期ですね。
款冬華の読み方は「ふきのはなさく」です。
フキは蕗という漢字が一般的に使われていますが、款冬というのはフキの漢名です。
款という字には、金属や石に文字を彫ること、画面に字を書きつけること、という意味があります。
冬の雪の中、枯れ草の中にくっきりと彫りつけられたような春の兆しがフキノトウだということなのでしょう。
フキは、あの傘になりそうな特徴ある形の葉と、ストロー状に穴が空いた茎(正確には葉柄)が特徴的です。
食べるのは一般的には茎の部分になります。
この茎の部分が成長する前、早春のまだ寒い時期に、フキの花の部分だけが地上に出てきます。
まだつぼみのうちに食べますが、これをフキノトウと呼びます。
まだ寒い時期にフキノトウを見つけるのは、とても嬉しいものです。
春を先取りした気分になれますから、みなこぞってフキノトウを食べたがります。
款冬華の読み方は「ふきのはなさく」ですが、意味はフキノトウが蕾を出すということです。
普通は花が咲いたフキノトウは食べません。
款冬華は日本独自の七十二候です。
フキノトウに春を感じ、それを食べる習慣が日本独自のものだということをよく表しています。
昔からフキを食べてきた日本人!特にフキノトウにはこんな効果が!
フキは縄文時代から食用にされ、平安時代には栽培されていたそうです。
927年の延喜式には、3年に1回の植え替えをする、1段(1つの畑か?)に34人の労力がいる、などフキについての記述があります。
特にフキノトウは薬効があり、食べると若返るといわれていました。
実際にフキノトウの苦味成分は、胃を丈夫にして腸を整える他、新陳代謝を上げる効果があります。
食物繊維も豊富に含んでいるので(ゴボウ以上だそうです)、便秘の解消に効果がありますし、昔から痰を切る効果が認められていました。
よいことばかりのようですが、実はフキにはアクがとても多く、アク抜きは欠かせません。
フキノトウのアクには、フキノトキシンという物質が含まれています。
これは肝機能障害を起こすことが知られていますが、フキノトキシンは水溶性のため、茹でて水に晒すことで、ほとんど心配はいらなくなります。
安心して、春の味覚を楽しんでください。
フキノトウの薬効のおかげで春を先取りした気持ちになるだけでなく、実際に季節の変わり目を乗り越える力を得ることができます。
冬眠した熊が目覚めたときに最初にフキノトウを食べることはよく知られています。
フキノトウの苦味成分で新陳代謝を活発にして体を早く目覚めさせているようです。
熊はもちろんフキノトウのアク抜きなどしませんし、色々な理屈を知っているわけではありません。
それでもフキノトウを食べるということは、フキノトウの香りは動物の本能に訴えかけて、食べさせてしまう効果があるのかも知れません。
フキノトウの苦味がわかるのは大人になった証拠?それとも、老化?
フキノトウが出るのが待ち遠しい大人は、その美味しさがわからない子どもや若い人のことをかわいそうだと思っているかも知れませんね。
でも、そもそも苦味というのは味覚の中でも警戒しなければいけない味です。
甘みは糖分、旨味はタンパク質、塩味はミネラルに基づいている味なので、美味しいと思って当然です。
エネルギーを補給して、生きていくためにはこれらの味のするものを体に取り入れなくてはならないからです。
しかし酸味は腐敗を連想させ、苦味は毒物を知らせる味なので人間は本能的に避けるようにできています。
小さな子どもほどこれらの味を嫌うのは、有害なものを避ける本能が強いということなので、喜ぶべきことなのです。
人間は成長するとともに、変わった味、多様な味を求めるようになり、酸味や苦味に対しても鈍感になっていきます。
変わったものや美味しいものを食べたいという欲求で、酸味や苦味を克服していると考えることができるのです。
また人間は年齢を重ねると、体には様々な変化が起こります。
それは味覚も同じことです。
はっきりいうと味覚も老化するのです。
年齢とともにフキノトウの苦味が気にならなくなった人は、実は味覚が老化して、苦味を感じられなくなったとも考えられます。
周りにフキノトウを食べられない人がいたとしても、この人の味覚はまだ若いんだな、と暖かい目で見守ってあげましょう。
決してこの味がわからないなんてかわいそうに、などと同情はしないようにしましょう。
冬の生活に役立つ「款冬華」の使い方!冬の楽しみを見付けて、春に備える!
とても寒い款冬華の時期には、昔から寒さに負けないように様々な行事が行われています。
神道や仏教での寒修行、武道では寒稽古が行われますし、酒や味噌などはこの時期に仕込まれます。
寒仕込みという言葉を聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。
また大寒の水は腐らない上に、薬になるといわれていますし、大寒卵は栄養豊富で、金運が上がるとして今でも大変な人気があります。
寒い時期でも人々は楽しみを見付けたり、寒さを利用して自分を鍛えたりして有意義に過ごしていたことがわかります。
確かにどんなに寒くても、家の中で縮こまっているだけでは生活していけません。
寒くて嫌になったときこそ、「款冬華」を思い出しましょう。
款冬華という言葉を暦で見かけたら、まだ寒い季節であっても、いずれは春が来て冬とは体調が変化することを念頭に置いて生活しましょう。
寒仕込みの食品に楽しみを見付けて心を引き立てるのもよいし、一般の人が参加できる寒修行もあります。
また、本当にフキノトウを探すのもよいですね。
フキノトウは決してスーパーで買うものではありませんが、枯れ草色の中から頭を出すか出さないかのフキノトウを見付けるのには、注意力が必要です。
ただ漫然としていては、フキノトウは見付けられません。
毎年フキノトウが見付けられる自然豊かな場所に暮らしていても、気を付けていないと、すぐにフキノトウは花柄が伸びて食べごろを逃してしまいます。
フキノトウがこうなると、薹(とう)が立ったといわれます。
薹が立つという言葉の由来はフキノトウにあったのです。
款冬華という言葉を見かけたら、フキノトウを探すように心がけていれば、食べごろを逃してしまう心配はなくなりそうです。
フキノトウを見付けて春を先取りして明るい気分になるとともに、冬眠明けの熊を見習ってフキノトウを食べることで、寒さで疲れた体を整えましょう。
「款冬華」には、心の拠り所としての使い方もある!終わらない冬はないから!
款冬華の時期は一年で一番寒い時期ですが、この時期を通り越すとすぐに立春がやってきます。
立春は旧正月の時期と重なり、かつては一年が始まる大切な時期でした。
大寒の末候には、鶏始乳(にわとり始めてとやにつく)となり、春の訪れを感じたニワトリが卵を生み始めるとあります。
確かに人にも動植物にも厳しい冬ですが、季節は一瞬も止まっていません。
冬は春の準備をしているのであって、決して暗い寂しい季節ではないのです。
季節が動いているのを教えてくれるのが七十二候であり、春の明るさを思い出させてくれるのが款冬華です。
時候の挨拶として覚えておくのもよいですが、心の拠り所として使える言葉が款冬華だといえるでしょう。
本当の冬のときだけでなく、冬のような気分になったときにも、款冬華は使えます。
いつか冬は終わりが来て、フキノトウが顔を出すときがやって来ます。
それがわかっていれば、どんなことも乗り越えられるのではないでしょうか。
まとめ
今回は「款冬華」の読み方や意味、使い方について解説しました。
フキノトウの栄養や効果についても説明しましたので、今まで食べず嫌いだった人は、一度挑戦してみてください。
最初は苦いと思っても、2度3度と食べているうちに病みつきになりますよ。
美味しさがわかると、フキノトウを見付けたときの喜びは倍増します。
款冬華という言葉を見ただけでも、頭の中は春への喜びでいっぱいになるでしょう。
款冬華のおかげで、春を待つ生活の喜びが増えるなら、素敵なことではないでしょうか。