お屠蘇(おとそ)というと、もしかしたら関東にお住まいの方は馴染みがないかもしれません。
関西地方ではお正月に飲むものとして昔からしきたりがあり、親しまれています。
お屠蘇は現代になり飲む機会は激減していますが、お祝いの席では欠かせないものでした。
お屠蘇と聞いてもどんな材料が使われているのか、作り方や飲み方など分からないことだらけです。
今回はお屠蘇の意味や由来、お神酒との違いなど詳しくなれるようにわかりやすく説明していきます。
お屠蘇の意味や由来について
お屠蘇の意味や由来について、詳しくみていきましょう。
お屠蘇というのは通称で、実は正式名称を「屠蘇延命散」や「屠蘇散」といいます。
なんだか漢方薬のような名前ですが、5〜10種類もの生薬が使われているからなんですね。
「屠蘇」とは邪気を「屠る(ほふる)」、魂を「蘇らせる」という意味が込められています。
他の説では「蘇」は病気をもたらす鬼を表しており、鬼を倒すことで病気を退けるという意味もあります。
お屠蘇を飲むことで邪気を祓い、1年の間家族みんなが健康で暮らせるといわれているのです。
お屠蘇はもともと平安時代に風邪などを予防するために振る舞われたのが由来です。
中国から伝わった当初は宮廷でおこなわれていたお正月の行事に使われていましたが、江戸時代には一般庶民にも浸透しました。
お屠蘇にはどんな材料が使われているの?
お屠蘇は「屠蘇延命散」や「屠蘇散」という名称で、生薬をいくつも調合して作られた祝い酒です。
5〜10種類の生薬を使っているのですが、具体的にどのような生薬でどんな効能があるのかみていきましょう。
①白朮(びゃくじゅつ)
オケラ、オオバナオケラの根を乾燥させた生薬で、胃腸の調子を整えて尿の出をよくする作用があります。
代謝を整えて、消化器官の不調に良い効能があるのが特徴です。
②山椒(さんしょう)
山椒の木になる果実の皮を乾燥させた生薬で、胃腸の働きを活発にさせる働きがあります。
食欲を増進させて胃もたれを予防改善する、夏バテなどにも良い効能があるのです。
③桔梗(ききょう)
桔梗の根を乾燥させて作った生薬で、秋の七草のひとつとしても有名です。
痰を出しやすくして、気道の粘膜をなめらかにします。
腸内の善玉菌を増やして、便秘を防ぐ作用もあります。
④肉桂(にっき)
肉桂の樹皮を乾燥させて作った生薬で、独特の香りから胃腸の調子を整えます。
香辛料としても使われており、食欲を増進して発汗作用もあるのが特徴です。
⑤防風(ぼうふう)
トウスケボウフウというセリ科の植物の根を乾燥させた生薬で汗を出して熱を下げ、頭痛などを取る作用があります。
主に一般的な風邪に良い作用があり、体の痛みもとってくれるのです。
⑥陳皮(ちんぴ)
みかんの皮を乾燥させた生薬で、吐き気や嘔吐を鎮めて胃腸の調子を整えます。
漢方の胃腸薬には欠かせない生薬です。
⑦大黄(だいおう)
大黄の根を乾燥させた生薬で、下痢や便秘を改善する作用があります。
胃腸を健康にして炎症を防ぐ作用もあるのが特徴です。
お屠蘇の作り方とは?
お屠蘇はさまざまな生薬が含まれていますが、実は簡単に作れる屠蘇散のパックを購入できるので活用しましょう。
イチから生薬を集めなくて済むので、効率的にお屠蘇を作れます。
作り方をご紹介する前に、まずは材料からみていきましょう。
・材料…屠蘇散 1パック
みりん 150ml
酒 150ml
たった3つの材料でお屠蘇が作れるので、誰でも簡単に作ることができます。
みりんと酒はなるべく上質なものを使い、みりんは間違えて「みりん風調味料」を使わないように注意しましょう。
お屠蘇はできあがるまでに長い時間を要するので、お正月に飲むなら大晦日から準備しておきます。
飲みにくいと感じた場合には、みりんを多めにしたり砂糖を加えたりするのもおすすめです。
・作り方…みりんと酒をあわせて、屠蘇散を入れて5〜7時間漬けたままにします。
十分に成分が溶け出したら、屠蘇散の袋を取り出すだけです。
長時間漬け過ぎると沈殿物が濁って仕上がりが悪くなるので、漬け時間は守ってくださいね。
お屠蘇はどんな器に入れる?
お屠蘇を入れる器は「屠蘇器」という道具を使います。
セットになっていて、お屠蘇を入れる以外にもお祝いの席でお酒をいただく際に使うことが多いです。
具体的にお屠蘇を入れる器はどんなものがあるのか、詳しくみていきましょう。
・銚子(ちょうし)…お屠蘇を入れる急須のようなもの
・盃(さかずき)…お屠蘇を注ぐ入れ物
・盃台(さかずきだい)…盃を重ねて置くための台
・屠蘇台(とそだい)…お屠蘇のセットである屠蘇器を置くための台
・銚子飾り(ちょうしかざり)…水引で銚子に結んで飾るもの屠蘇器は朱塗や黒塗、溜塗の3種類の色がありますが、朱色が最も高貴な色となっています。
形状もさまざまな種類がありますが、特に決まりはないので好みで選んで大丈夫です。
お屠蘇の正しい飲み方のしきたり
お屠蘇は地域によって正しい飲み方のしきたりが異なる場合がありますが、一般的な飲み方はどのような感じなのでしょうか。
お正月というお祝いの席で飲むお酒なので、きちんとしきたりに沿った方法で飲みたいですね。
具体的な飲み方について、詳しくみていきましょう。
①飲むタイミング…お屠蘇を飲むタイミングは、元日の朝お雑煮やおせち料理などを食べる前がベストです。
お雑煮やおせち料理は年神様へ感謝の気持ちを込めて食べるものなので、いただく前にお屠蘇を飲むための儀式を始めます。
三が日中に来客があった場合も、お屠蘇でおもてなしをするのがマナーです。
②お屠蘇の儀式…お屠蘇の儀式はまず、みんなが東を向くことから始まります。
最初に一番の年長者が、一番年少者の盃にお屠蘇を注いでください。
年少者から年長者の順番にお屠蘇を飲んでいきますが、若いエネルギーを年寄りに込めるという意味があります。
厄年にあたる人がいる場合、最後に飲むのが一般的です。
③唱えるべきこと…お屠蘇を飲み終えたら、みんなで「一人これを飲めば一家くるしみなく、一家これを飲めば一里病なし」と唱えます。
お屠蘇を飲む時の注意点とは?
お屠蘇を飲む時の注意点について説明していきます。
お屠蘇の材料を見るとわかるように、アルコールを含んでいる飲み物です。
未成年者はもちろん、妊娠授乳中の女性や車を運転する予定のある人は飲めません。
お祝いの儀式ということで、全く参加しないのも失礼にあたるので飲むフリをしましょう。
盃に口をつけるだけで良いので、お正月のお祝いごとを全うしたいですね。
お屠蘇は主に胃腸の調子を整える生薬でできていますが、たくさん摂取したからといって胃腸の調子が良くなるわけではありません。
たくさん飲むものではなく、あくまでお祝いの雰囲気を楽しむものなので飲み過ぎないようにしましょう。
お屠蘇とお神酒の違いは何?
お屠蘇と同じような意味合いのものとして、お神酒(おみき)があります。
お神酒とお屠蘇との違いはなんなのでしょうか。
お屠蘇は屠蘇散という生薬を調合したものを漬けた薬酒ですが、お神酒は純粋な日本酒のことをいいます。
お屠蘇はお正月に飲まれる祝い酒で、お神酒は1年を通して神様にお供えされるのが特徴です。
お屠蘇が年少者から年長者への順で飲まれるのとは逆に、お神酒は年長者から年少者への順で飲まれます。
同じように見えて、実は飲むシーンや飲み方も違うお屠蘇とお神酒。
使い分ける時は、間違えないようにしていきたいですね。
お屠蘇はどんな味がするの?
お屠蘇は一体どんな味がするのか、飲んだことがない人からすればあまり想像がつきません。
お屠蘇は生薬のエキスが溶け出しているため、飲んだ時は薬草のような味がします。
少し苦味がありますが、意外に飲みやすいのが特徴です。
みりんを多めにすると甘くて飲みやすい味に、酒を多めにすると淡麗な味わいがします。
どうしても飲みにくい場合は砂糖を少しずつ加えて、味を調整してみてください。
基本的にお屠蘇は生薬の香りも楽しむものなので、お酒自体はなるべく香りの強くないものを選んだ方が良いでしょう。
作るときには日本酒や本みりんは、素材にこだわって選んでみるのがおすすめです。
材料が限られているからこそ、素材の良さが現れるのです。
ぜひ自分好みのブレンドを見つけて、オリジナルのお屠蘇を作ってみるのも楽しいですね。
まとめ
お屠蘇の意味や由来について材料や作り方、飲み方のしきたりを詳しくご紹介してきました。
お屠蘇は元旦にいただく祝い酒で、邪気を屠って魂を蘇らせるという邪気祓いの意味があります。
平安時代より中国から伝わり、江戸時代から庶民の間でお屠蘇が飲まれるようになりました。
材料は生薬とみりん、酒からなり、屠蘇器にセットしていただきます。
しきたりもさまざまですが、年少者から年長者へと飲み進めるのが一般的です。
アルコールなので飲めない人は飲むフリをしながら、お正月のお祝いを楽しんでみてくださいね。