日本には中国からはいって来た七十二候という、季節を72個に分けて考えた繊細な季節感を表現する言葉があります。
現代では手紙を書く方がめっきり減っていると言われていますが、それでも恩師や目上の方などにお礼や挨拶状を送ることもあるでしょう。
その際に必要になるのが、季語なのです。季語として知っていると便利なのが七十二項。
もちろん、必ずしも定義を重んじて手紙を書く必要はないですが、やはり知識があるのとないのとでは全く書き方が異なりますね。
より美しい季節言葉を身につけるため、こちらでは春の訪れを感じさせる七十二候の中の、第十七候・霜止出苗をご紹介していきます。
霜止出苗とは何て読む?
霜止出苗という、七十二候の中の第十七候である言葉をご存知でしょうか?
霜止出苗とは「しもやみてなえいずる」と読みますが、読み方を見ると日本語では読みにくいですね。
日本語である場合は漢字だけで文章を読ませるということはほぼなく、間にきちんと平仮名を入れることが通例です。
ですが、七十二候は言葉の全てが3文字から5文字ほどの漢字だけ。
どの言葉を見ても、文章にはなっていないのです。
ただ七十二候には、それを文章の様に読むという特徴があります。
ここまで見ただけでもわかるかもしれませんが、実は七十二候は中国から伝えられた季節の数え方です。
つまりこの読み方は漢文であると、考えて良いということでしょう。
その昔はもちろん天気予報もニュースもなかったので、毎日太陽が上ったり沈んだりということを調べ、日にちを計算していた人が多かったといいます。
それが中国からはいって来た七十二候の季節感のおかげで、日本人も繊細に四季を分けるということになったのです。
もちろん日本は中国と四季で見せる顔がそれぞれ違います。
そこで日本人は中国の七十二候を自分たちの国の特徴に置き換え、言葉を変えてきたのです。
一見難しく思えますが、日本人の四季を感じるセンスが高いことは、七十二候を見ても感じ取ることができます。
霜止出苗とはどんな意味があるの?
霜止出苗(しもやみてなえいずる)とは、七十二候の中で第十七候にあたるものになります。
この第十七候は時期でいうと4月25日から29日あたりのことを指し、春の日差しが段々と安定してくる頃のことを表現しています。
霜と聞くと幼少期に田畑や土の道に降りる氷柱を踏みつぶした記憶が、思い出される方もいるのではないでしょうか?
霜は寒い早朝に空気中の水分が大地におりて凍ってしまう状態を言うのですが、踏むとサクサクという、何とも言えない感触があるものですよね。
その霜が朝でも降りなくなってくるということは、春が訪れている証拠。
誰よりこの霜が降りてこない状態を喜んでいるのが、農家の人々です。
農家では土に霜が降りてしまうと、当然農作物が上手く育たないなどの現象が起きてしまうのです。
これは仕事にならず、もちろん致命的ですよね。
今でこそ農家によってはハウス栽培などをしているところもあるので、季節関係なく作物の成長を促すことも可能となりました。
ですが茶葉農家などは、今でも霜は大敵であると言います。
天気予報などで冷え込みの情報をいち早くキャッチすると、霜が降りやしないかとヒヤヒヤしているわけなのです。
ただ霜が降りない頃には、日中は穏やかな日差しが舞い降りるので、春を感じる最適な時期であると言えますね。
霜をという言葉は通常、冬に使われるもの。
農家にとっては嫌なものである霜だからこそ、重要な季節を表現するものとして七十二候の中で霜という言葉を使ったのかもしれません。
春に送る手紙の中で、霜止出苗の表現の使い片は?
誰かに手紙を送る、そんな行為は現代の日常から当たり前に失われつつあります。
ですが、やはり手紙を書くシーンというものは、いつもではなくとも訪れるものです。
そんな時に手紙の書き方を知っておくと、とても役に立つということもあるでしょう。
まず手紙をごく親しい友人に書く場合は、そこまで礼儀や文章形態にこだわりすぎなくても大丈夫だとされていますが、恩師や目上の方など、時と場合によってはしっかりした文章を書かなくては失礼に当たることもあります。
しっかりした文章といっても、手紙は基本は書く側の気持ち。
真心を込めて書く、ということを中心として書き始めることが何より大事であると言えるでしょう。
そうはいっても、あまりめちゃくちゃな文章は好まれません。
まず文章の最初、いわゆる書き出しの部分がとても重要。
拝啓などを書き出しに使った後は、七十二候の時候を入れるととても季節感が出て綺麗にまとまります。
例えば4月後半に送るように、七十二候の使い方をわかりやすく説していきます。
・霜止出苗、道の苗が段々と成長を見せる季節となりました。ご家族の皆様は、いかがお過ごしでしょうか?
・霜止出苗、苗が健やかな成長を見せるほど日ごと暖かく、とても過ごしやすくなりました。ご無沙汰しておりますが、ご家族の皆様はお変わりありませんでしょうか?
などとすると文章が礼儀正しい上に、4月末の霜が溶ける頃の暖かい陽気を表現できるのです。
やはり日本は四季がうつろう国であることが魅力です。
この四季の変化を文章に入れるだけで、ぐっと手紙の高尚さが増すといっても過言ではありません。
また文章の最初に七十二候を入れ、しかもそこで一度句読点で切るとより読みやすく意味が通じるようになるのがポイント。
このような使い方をすると、手紙自体が美しいものへと変わります。
八十八夜の忘れ霜とは?
霜止出苗が、4月末の話であることはわかりました。
この時期には霜が降りなくなるほど、気候が暖かく安定したということですね。
ですが他にも、霜を使った言葉があります。
それは、八十八夜の忘れ霜というもの。
八十八夜とは立春から数えて88日目のことをいうのですが、日にちでいうと大体5月2日頃のことを指します。
名前の通り、立春から数えて88日目の夜は冷え込み、翌朝は霜が降りているということです。
5月2日頃というと、そこまで冷え込む印象はもちろんありませんよね。
だからこそ「忘れ霜」という言葉を使い、寒かった日の事はもう忘れていたのに急に冷え込むという様子を表現しているのです。
やはりこれは農家にとっても恐れている事態でありますし、何より季節の変わり目で体調を崩す方もいることでしょう。
イレギュラーに現れるこの寒さが、とても記憶に残りやすいということで生み出された言葉。
それだけ「霜」ということに対し、日本人が敏感に反応しているとも考えられます。
霜を使うのであれば冬に使うのが良さそうですが、それをあえて春を表現する際に使うのが、また粋ですね。
霜止出苗に頃に食べるヨモギ餅
霜止出苗の頃に食べる日本古来の食べ物というと、ヨモギ餅ではないでしょうか。
深い草色をした歯ごたえのあるお餅に、あんこやきな粉を合わせて頂くヨモギ餅には、草の香り漂う春の味わいがあります。
その1週間後には端午の節句があるため、店頭にも柏餅が並び始めます。
柏餅ももちろん手作りすることも出来るのですが、やはり自宅で作る餅というとヨモギ餅。
最近でも場所によっては道のヨモギを摘み、それを家で茹でてすり鉢ですったら上新粉などと混ぜて、餅にするという方もいることでしょう。
白い餅粉にどんどん緑が混ざり合い、春らしい色合いがとても美味しそうだと日本では昔から食べられています。
最近は洋菓子なども人気がありますが、やはり和菓子は伝統的な美味しさがありますよね。
ヨモギ餅はそこまで見た目が華やかではないですが、緑茶などにある定番の和菓子です。
春になったらヨモギ餅を手作りして、是非その時にしかない楽しみを味わってみてください。
お子さまからお年寄りまで霜止出苗の季節感を感じ、また春が来たという喜びをみんなで噛みしめることができるかもしれません。
まとめ
こちらでは七十二候の中の第十七候、霜止出苗についての意味や手紙での使い方などについてまとめてきました。
七十二候は奥が深く、しかもたくさん言葉が作らられているため簡単に覚えることはできないかもしれません。
ですが日本の季節をいかに美しく、わかりやすく表現するかということにこだわられているのは一目瞭然。
普段は気にしない季語ではありますが、これを機会としてぜひ一度七十二候について考えてみてはいかがでしょうか?
今まで気が付かない日本の春を、今年は楽しむことができるはずです。