「玄鳥至」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
玄鳥と聞いても、一体どんな鳥なのか、想像もつかないという人も多いかも知れません。
それに、この文字だけではなんと読むのかも分からないでしょう。
この玄鳥というのは、日本の春から秋に掛けてよく目にする、ある渡り鳥のことを指します。
ここでは、玄鳥至という言葉の意味や読み方、玄鳥についてを詳しくご紹介していきます。
玄鳥至の意味は?どういうこと?
玄鳥至とは、七十二候の一つです。
二十四節気の清明での初候になり、具体的には、4月5日から4月9日頃を指します。
意味は、「ツバメが南の方からやってくる頃」となります。
ツバメは、渡り鳥で日本が寒くなる前に南に移動し、東南アジア(主にフィリピン)の島々で暮らしています。
そして、日本が暖かくなる頃に戻ってくるのです。
夏に戻るその姿から「夏鳥」と呼ばれています。
ツバメは「玄鳥去(つばめさる)」の9月頃まで日本に滞在し、卵を孵して、雛を育て上げる子育てをします。
玄鳥というのはツバメの異名です。
玄=黒という意味があり、黒い鳥という意味を持ちます。
ツバメが飛来してくると、日本では本格的に農耕を始める時期となります。
尚、清明の次候は、「 鴻雁北(こうがんかえる)」、末候は「虹始見(にじはじめてあらわる)」になります。
これを見ると分かるように、鴻雁はツバメが来ると北へ帰り、ツバメが去ると日本へやってくる冬鳥です。
入れ替わりの様にして日本に渡ってくるのです。
玄鳥至の読み方は?
玄鳥至は「つばめきたる」と読みます。
中には「げんちょういたる」と読む人もいます。
渡り鳥の生態がよく分かっていなかった大昔には、「ツバメは常世の国(とこよのくに)からやってくる鳥」と言われていました。
常世の国というのは、海の遙か向こうの方にあり、この世とは違う楽園のことを指しています。
大昔に穀物の神である「スクナヒコナノカミ」が神仙へ渡ったとされていましたが、それもこの常世の国をいいます。
そんな常世の国から幸せを運んでくる、神の使いだと考えられていたのです。
ですから、家の軒先に巣を掛けられても、ありがたく見守るという習慣になったのでしょう。
ツバメは幸運をもたらす鳥!?
昔から、ツバメが巣をかけた家は、幸福になるという言い伝えがあります。
前述のように、ツバメが常世の国からきた神の使いであると考えられていたため、幸福をもたらしてくれるという良いイメージを持たれていたのですが、
実際に良いことが有ったという話が後を絶ちません。
例えば、金運がアップした、子宝に恵まれた、店が繁盛したなど、本当に幸運を運んできてくれたのではないか?とされる話も多く聞かれます。
ツバメが巣を掛けると、その下が糞で汚れるのですが、それすらも「運が付く」と言われているのです。
これは、一種のプラシーボ効果のようで、「ツバメが来れば幸運が訪れる」と思い込むことにより、無意識に自らが幸運を引き寄せたり、幸運に結び付けたりしているだけかも知れません。
でも、その思い込みい意外にも、ツバメが来ると様々な利点があるのです。
ツバメは、虫(主にウンカやシロアリなどの害虫)を食べ、農作物を荒らすことはありません。
そのため、益鳥と呼ばれているくらい良い事ずくめの鳥なのです。
また、ツバメは警戒心が強く、本能的に危険であるか否か、猛禽類などに子を狙われる可能性などを察知し、騒音などの少ない、比較的安全な場所に巣を掛けると言われています。
そのため、子供の多い保育園や幼稚園、人目に付きやすい出入口付近などに巣を持つことが多いのでしょう。
ですから、もしも我が家にツバメが巣を作ったのであれば、その家は過ごしやすく安全だということになると考えられているのです。
玄鳥至を挨拶で使いたい!具体的な使い方は?
玄鳥至と聞いても、「どんな時に使う言葉なの」と、使い方が良く分からない人も多いのではないでしょうか?
玄鳥至のような七十二候の言葉は、時候の挨拶などに用いることが一般的です。
例えば、手紙やハガキの冒頭の挨拶として、
「玄鳥至の候、皆様におきましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。」
「玄鳥至、ツバメが飛来する季節となりました。」
という様に使います。
手紙以外にも、ブログやSNS、会報のコラムなどにも使われています。
七十二候の使い方は、難しいように感じるかも知れませんが、非常にピンポイントで美しい季節の表現ができるため、積極的に使うと良いでしょう。
玄鳥至の時期に旬を迎えるものや行事
玄鳥至の時期に旬を迎えるものは、サザエ、蕨(わらび)、じゃがいも、行者にんにく、鰹(かつお)などです。
特にサザエは、旬があることを知らないという人もいるのではないでしょうか?
春のものは身も柔らかく美味しいのです。
また、蕨はお浸しにしたり、天ぷらにすると美味しくいただけます。
旬のジャガイモは、皮も柔らかいので、そのまま蒸かして食べるのもおすすめです。行者にんにくは、若い芽をお浸しや天ぷらでも美味しいですが、刻んで鰹にかけると絶品です。
この時期の代表的な行事は入学式、入社式、灌仏会、十三参りなどです。
灌仏会は、毎年4月8日に行われる、お釈迦様の生誕を祝うおまつりのことで、「お花祭り」と呼ばれることもあります。
また、十三参りは3月13日から5月13日頃に数え年の13歳の子が成長と開運を願い虚空蔵菩薩へ参るという行事です。
七五三のように全国的に有名な行事ではありませんが、一部の地域では根強く行われているものです。
ツバメの名称は実はたくさんある!
ツバメは燕と書くのが一般的ですが、玄鳥のように黒い鳥という意味を表わす名前もあります。
また、ツバクロと呼んでいる地域や年代もあります。
某球団のマスコットキャラクターもこのツバクロという呼び名にかけているのではないか?とも言われています。
その他にも、つばぐら、ツンバクラ、ひいご、ヒューゴ、つばころ、つんばくろ、すばくろ、つば、またがらし、またがらす、乙鳥などと色々な名称で呼ばれています。
もともと、日本では、ツバメのことを「つばくらめ」と呼んでいました。
それは、竹取物語にも表記されていて、かぐや姫が「つばくらめのもたる子安貝(こやすがい)をとりて給う」と難題を出す様子が描かれています。
この呼び方が変化して、ツバクロ、ツバメへとなったのでしょう。
こんなに多くの呼び名があるほど、昔から人々の生活に根付き、愛されているのです。
ツバメに関する様々なジンクス
ツバメには、幾つかのジンクスがあります。
前述した「ツバメが巣を作る家は安全」というものもその一つですし、「ツバメが来ると豊作になる」というものも、ツバメが稲の害虫などを食べてくれるという理由からいわれていることです。ツバメは害虫を一日に数百匹も捕り、自分と雛が食べるのです。
ですから、ツバメが子育てをする付近では、害虫の居ない綺麗な水田ができるのです。
「ツバメが低く飛ぶと雨が降る」というジンクスがありますが、これにも根拠があり、雨の前は空気中の水分量が増え、ツバメのエサとなる虫の身体も重くなり高く飛ばなくなります。そのため、虫を追うツバメ自身も低く飛ぶのです。
梅雨の時期には、低く飛ぶツバメの姿を多くみるのは、こういった理由があったのですね。
中国の宣明歴では・・・?
中国の宣明歴では、玄鳥至の時期は「桐始華(きり はじめて はなさく)」となり、桐の花が咲き始めるころという意味を持ちます。
また、鴻雁北の時期は「田鼠化為鳥(でんそ けして うずらとなる)」となっています。
昔は、日本でも中国の宣明歴をそのまま使用していました。
中国で作られた七十二候は、主に中国の華北の気候、風土に合わせてつくられたものです。でも、それでは、当然日本の気候や風土には合いません。
そのため、日本に合わせて渋川春海という人が変更したのです。
中国が原産の桐は、日本では5~6月に紫色の花を咲かせます。
日本とは少しだけ季節のズレが生じているのです。
まとめ
玄鳥至という言葉は、ツバメが飛来してくる時期という意味をもつ日本の季節をピンポイントで表したものです。七十二候の一つで、4月5日~9日頃をいいます。
ツバメは、「幸福の王子」というの話にも出てくるように、人々に幸せを運ぶと信じられており、実際にその役割をしているのではないかと考えられています。
小さな体で何千キロもの距離を飛ぶ渡り鳥ですが、日本を安住の地と認めて、毎年飛来してくること自体が幸福なことなのかも知れませんね。