「木の芽起こし」という言葉を聞いたことがありますか?
日常生活でこの言葉を見聞きすることはなかなか無いため、知らない人も多いでしょう。木の芽を起こすのに欠かせないものは色々ありますが、中でも取り分け重要視されるのが雨=水です。
木の芽起こしは、芽吹きを促す雨を指して言うのですが、一体どういうものなのでしょうか?ここでは、木の芽起こしとその時期についてを詳しくご紹介します。
木の芽起こしとは?
木の芽起こし(きのめおこし)とは、いわゆる春に降る雨のことを指します。
正確には、木の芽起こしの雨という言葉で使われています。
地域によっては、木の芽張る雨(きのめはるさめ)や木の芽萌やし(きのめもやし)、木の芽流し、木の芽雨などと呼ばれることもあります。この木の芽起こしには、植物達の目を覚まし、成長させるという大切な役割があります。
冬に眠っていた植物の芽吹きを促す貴重で重要な春の雨なのです。ただ、春の雨はまだ冷たく、時に霙(みぞれ)のような雪交じりの雨が降ることもあります。木の芽起こしは、その中でも穏やかに降り注ぐ雨のことをいいます。同じ日本国内でも、その年の気候や、地域により、木の芽起こしの雨が降る日は異なります。春の始めは高気圧と低気圧が混ざり合うため、不安定な天気が続くことがあります。なかなか晴れが続かず、雨になる日も多くなりますが、三寒四温と言われるように少しずつ暖かくなり、日に日に春めいていきます。
木の芽起こしは春!大体何月頃に降るの?
木の芽起こしは、毎年春に静かに降る雨の事をいいます。
およそ、2月の下旬から3月初旬にかけて降る雨を指すのが一般的です。
暖冬の場合は2月中に降ることが多いようですが、1月や4月など早過ぎたり遅過ぎたりすることはありません。あくまで、草木の芽吹きを助長する、春の始まりの時期に降る雨のことを言いますので、芽吹くことのない寒すぎる時期や、新緑が深まってから降る雨のことではないのです。
この頃吹く風を、木の芽風(このめかぜ)といいます。
木の芽を芽吹かせる暖かな風と言われています。また、この頃の穏やかな晴れの日を木の芽晴(このめばれ)ともいいます。春の雨、暖かい風、太陽の光で徐々に木の芽が開いていくのです。
催花雨(さいかう)という言葉もあり、これは木の芽起こしと同様の意味を持ちます。ただ、字を見ると分かるように、催花雨は花を早く咲かせるための雨という意味があります。
二十四節気では雨水、啓蟄の頃
日本では、二十四節気という1年間を12の節気と12の中気で24等分したものが存在します。
まず、1年を夏至と冬至の二至で分け、春分と秋分の二分で分けます。(二至二分)、更に立春、立夏、立秋、立冬の四立で分けます。これら二至二分・四立を合わせた八節と太陽の動きを元に24分割し、それぞれに名前を付けています。
その二十四節気の2月19日から3月5日頃までを「雨水(うすい)」といいます。
これは、丁度、木の芽起こしの雨が降る時期であると言えます。また、3月5日から3月19日頃までを「啓蟄(けいちつ)」といい、冬の間、地中に潜んでいた虫が、扉を明けて地上に這い出すという意味があります。
まさに、雨水で降る木の芽起こしの雨を受けて、春を感じた虫たちが動き出すということなのです。
二十四節気のそれぞれを、初候、次候、末候に分けたものを七十二候といいます。 雨水の初候は「土脉潤起(つちのしょううるおいおこる)」、次候は「霞始靆(かすみはじめてたなびく)」、末候は「草木萌動(そうもくもえうごく)」となります。
これらの言葉を見ても、春の雨を受けて自然界が動き始める様子を想像できます。
木の芽起こしの雨以外にも様々な雨がある
木の芽起こしの雨のように、春に降る雨は、様々な種類があります。
前述のように催花雨、養花雨(ようかう)、育花雨(いくかう)などは、春の花の開花を促す雨という意味があります。
雪解雨(ゆきげあめ)は、雪を溶かし草木の芽生えを促す雨とされています。
甘雨(かんう)や慈雨(じう)、膏雨(こうう)は、草木を潤す雨で、芽吹きや成長を助ける雨をいいます。
春夕立(はるゆうだち)は、夏の夕立とは異なり、にわか雨のようなものです。
菜種梅雨(なたねづゆ)とは、菜の花が咲く時期に降る長雨のことをいいます。
桜雨(さくらあめ)は、桜が咲く頃に降る雨です。花時の雨ともいいます。
草の雨(くさのあめ)は、新緑の時期に降る雨です。
菜花雨(なばなあめ)は菜の花に降る雨のことです。
春霙(はるみぞれ)は、春に降る霙のことです。
寒さ暖かさが曖昧な時期なので、雨や雪が霙になることも多いのです。
春時雨(はるしぐれ)は、春に降る気まぐれな雨をいいます。
雷が伴うと春雷(しゅんらい)といいます。
春雨(はるさめ・しゅんう)は、雨粒が細かく、しとしとと降る冷たい雨をいいます。2月末から3月頃までの雨を指します。
暖雨(だんう)は、早春に降る暖かい雨をいいます。
迎梅雨(げいばいう)とは、陰暦の3月に降る雨のことです。
軽雨(けいう)とは、細かく静かに降る雨をいいます。
紅の雨(くれないのあめ)は、紅の花であるしゃくなげ、つつじ、桃、杏などが咲き乱れる春に降る雨のことです。
まだまだ、春に降る雨の呼び名はたくさんあります。時候の挨拶などにも使えますので、知っていると話の幅が広がります。そして、「今日はどんな雨かな?」と考えながら生活してみると、気分の沈みがちな雨の日も憂鬱にならずに過ごせるかも知れません。
陰暦の2月は「木の芽月」という
日本では明治5年から太陽暦(グレゴリオ歴)で1年が区切られていて、現在でも世界中でこの太陽暦が使用されています。それまでは、陰暦(太陰太陽暦)が使われていました。太陽暦では1月、2月・・・と呼んでいますが、陰暦では、様々な呼び方で各月を呼んでいました。
2月は木の芽の芽吹く時期という意味で、「木の芽月(このめづき)」と呼ばれていました。それ以外にも、如月(きさらぎ)、雪消月(ゆきぎえづき)、雪解月(ゆきげづき)、梅月(うめつき)、梅見月(うめみつき)、花春(かしゅん)、仲春(ちゅうしゅん)、麗月(れいげつ)、初花月(はつはなつき)、仲の春(なかのはる)など、2月だけでもこれだけ多くの呼び名があるのです。
それぞれが、その時期の特徴を捉えた呼び名となっています。
また、木の芽というのは、春の季語になっているため、俳句や短歌、和歌などの世界では様々な使い方をされています。
木の芽が膨らみ、今にも開きそうになるのを木の芽張る(このめはる)といい、それもこの時期に使われる言葉です。その他にも、木の芽道、木の芽山など色々な情景を表わしますので、春の句を詠む際には使ってみても良いでしょう。
木の芽時は身体の不調に要注意!!
木の芽起こしに似た言葉に、木の芽時(このめどき)というものがあります。
冬の間、眠っていた木の芽や虫たちが、春になり起きて活動を始める時期という意味があります。
この時期は、昼は暖かく夜は寒いなど1日の気温差が大きく、1年で一番身体やメンタルを崩しやすい時期です。
本来、生物は寒い時期には冬眠をし、暖かくなると共に再び活動を始めるものですが、人間は冬の間も絶え間なく活動をしています。それが故に、気温や気候の変化や目覚めの時期にスムーズな対応ができずに心身共に疲れてしまうのです。
また、春は期末ということもあり、進学・進級や異動、引っ越しなどを経て、新しい環境へ進む人も多いものです。慣れない環境へのストレスや不安が非常に増す時期でもありますので、注意が必要なのです。この時期は無理をせず、不調を感じたらきちんと休息をとるようにしましょう。
まとめ
木の芽起こしとは、植物の芽生えや芽吹きを助ける恵みの雨のことをいいます。
徳島県では木の芽起こし、木の芽もやしと呼ばれ、九州地方では木の芽流しなどと様々な名称で呼ばれています。ガーデニングや農作業などを行う人にとっても、春の野山を散策して歩く人にとっても、非常に待ち遠しい雨です。
木の芽は、俳句などの春の季語にも使用されています。木の芽起こしという言葉も幾つもの俳句などに使われていますし、木の芽風、木の芽晴、木の芽時など似たような言葉もたくさん存在します。その全てが2月下旬から3月上旬頃までの芽吹きの時期を指します。美しく心躍る時期ですが、人間にとっては心身共に負担の大きい時期でもありますので、程よい休養を取りながら生活していきましょう。