夏季シーズンになると「お盆」という言葉をよく耳にしますよね。会社でも「お盆休みをとります」という会話がされますし、日本に根付いた文化といえるでしょう。日本全国でお盆はありますが、実は各地域によって過ごし方が異なるということをご存知でしたでしょうか?今回はそんなお盆の、各地域のローカルな過ごし方に着目してみましたよ。
そもそもお盆はどんな日のこと?
夏休みシーズンと被ることもあり、お盆=お休み、というイメージは一般的かと思います。仏教系の家庭が多いとはいえ、日本は宗教行事に関してあいまいに捉えていることが多いですものね。せっかくお休みを貰える日なのですから、お盆はどんな日のことなのか、きちんと説明できるようにこちらで覚えておきましょう。
●ご先祖様が遊びに来る日
お盆の装飾品として、ナスやキュウリに割りばしを指したものがありますよね。これは精霊馬とよばれ、お盆の日の始まりと終わりにご先祖様を送り迎えする乗り物として飾られるのです。お盆に精霊馬と併せて迎え火・送り火を炊くことで、ご先祖様の送り迎えができると考えられています。後ほどお話するように、全国のお盆に違いはあれど、この期間にご先祖様と共に過ごしご供養をする、という精神が根本にあるということですね。
時期はいつからいつまで?
夏休みシーズン、ということは思い浮かんでも、お盆が具体的にいつにあたるのか、正確に把握できていますでしょうか。ぼんやりとはイメージできても、この日からこの日まで、と正確にお答えになる方は案外少ないかと思います。お盆とはいつのことを指すのか、具体的な時期についても確認しておきましょう。
●お盆期間も地域差あり
全国的に広く一般的であるのは、7月13~16日、もしくは8月13~16日がお盆という日取りです。しかし旧暦で考える地域では9月中であったりと、お盆の期間にも地域性が出てくるようですね。ちなみに7月中のお盆は「新のお盆」とよばれ、8月中のお盆の方が正確であるという説もあります。
お盆の由来と歴史って?
お盆はご先祖様が帰ってくる日ということでしたが、いったいいつ頃から重要な日として認識されるようになっていったのでしょうか。こんなにも馴染みある習慣ですから、きっと何か理由があって残っている文化であると思いますよね。しかし実はお盆の起源には謎が多く、解明されていない謎とされているのですよ。
●記録がある以前から続く伝統
最古のお盆の記録は奈良時代の文献にみられるようですが、実はお盆の起源とされる習慣などははっきりと分かっていないのです。古来よりご先祖様を敬いお祀りする習慣はあり、その精神と自然崇拝などが織り交ぜられお盆ができあがった、と考えられています。奈良時代よりも前から続いている風習と考えると、かなり奥深いものがありますね。
こんな風習も!?各地のお盆事情
ではいよいよ本題の、全国各地のお盆の風習の違いについてみてまいりますよ。県ごとに、と言っても過言ではないほど独特の習慣がありますので、かなり興味深い内容となっているのではないでしょうか。
●青森県
お盆のお墓参りにあわせ、青森県では「法界折(ほっかいおり)」とよばれるお弁当を用意し、それを墓前で食べるという習慣があります。法界折の中身は煮物やお赤飯などで、特別豪華であったりはしないようです。
その他、「せなかあて」とよばれる食品をお供えし、後日きな粉をまぶして食べる習慣がある場所もあるようです。この「せなかあて」は小麦粉を練って薄く四角く伸ばしたもので、ご先祖様の背中が痛くならないようにという配慮を込めてお供えするものなのだとか。
●岩手県
3年以内に身内が亡くなった岩手県内の家には、お盆に「灯籠木(とおろぎ)」という提灯が飾られます。この灯籠木は目立つようにかなり高い位置に灯りが灯るようになっていて、この灯りがあるお宅の前ではお盆に地域を練り歩く「鹿踊り」という一行が踊りを舞い、近隣の方と共にご供養をするのだそうです。
●山形県と山梨県
山形県や山梨県ではお盆のお墓参りに、安倍川餅とほうとうがお供えされます。地元の味をお供えする、温かい風習ですね。
●福島県
じゃんがら念仏踊りという行事が福島県にはあり、お盆にお囃子を鳴らしながら近隣を周り、ご先祖様への供養としているそうです。
●東京都
昨今はお盆にまつわる行事をする家は減ってきていますが、東京では精霊馬に独特の工夫がみられます。ナスやキュウリに割りばしを差して終わりではなく、うどんを手綱に見立てて掛けておくのだそうです。たしかに普通の精霊馬ではご先祖様が掴まる部分がありませんものね。
●神奈川県と静岡県
神奈川県や静岡県でみらる風習で、お盆に砂山を作るというものがあります。家の前に精霊馬と共に置いておくのだそうですが、砂山の上にはさらに少量のお供え物も載せておくようです。丁寧なおもてなしの心がみえる風習ですね。
●千葉県
各家々でご先祖様をお迎えする形は多くみられますが、千葉県では地域全体でまとめてご先祖様を送り迎えする「上勝田の盆綱(かみかつたのぼんづな)」とよばれる風習があります。子ども達が藁でカゴを編み、それを持って家々を回り仏様を届け、盆の終わりにそのカゴを流して送るというスタイルです。
●茨城県
千葉県と似ている習慣で、茨城県にも「お盆綱」という伝統があります。藁で太い縄を作り、それを持った子どもたちが墓地から各家々を回る形で巡回し、藁の縄に付いてきたご先祖様を届けていくという形です。送る時も同様に、最後は墓地に戻るようにして回っていきます。地域全体で送り迎えするという考え方も、千葉県と同様ですね。
●栃木県
お盆ならではのお供え物として、栃木県では「釜の蓋まんじゅう」という炭酸まんじゅうをお供えする風習があります。何故「釜の蓋」という言葉が入っているのかというと、あの世は釜の中にあると考えられていて、その蓋が開くのがお盆とされているからだそうです。さらに栃木県では、ご先祖様は猛ダッシュして家に帰ってきてくれると考えられているのだそうですよ。
●新潟県
お盆のお墓参りに大きな提灯を持って行き、ご先祖様のために飾る風習が新潟県にはあります。お供え物ではなくお飾りでご供養の気持ちを表す、粋な風習といえますね。
●石川県
キリコ祭りという石川県独特のお祭りがありますが、このキリコはお盆のお墓参りにも持って行くのだそう。キリコとは独特の灯籠のことで、さまざまなデザインのものが販売されているそうですよ。
●福井県
福井県ではお盆に「御招霊(おしょうらい)」とよばれる行事が行われ、これをもってご先祖様の迎え火としています。大きな松明を振って目印とするスタイルで、迎え火は地域全体で行えるということですね。
●長野県
お盆にご先祖様を送り迎えするために、長野県では白樺の木の皮を干したものを焼く「かんば焼き」をもって迎え火・送り火をする風習があります。長野県といえば白樺の木が多いイメージですが、お盆の時に活用される木でもあったのですね。
●三重県
お葬式の後塩を撒くこともそうですが、死者との接触があった後、日本には「忌みを払う」習慣がありますよね。三重県のお盆では「波切の大念仏」という行事があり、これによって忌み払いをする意味合いがあるようです。故人の戒名が書かれた紙を竹に貼り、それを他の方とぶつけ合うという、少し荒っぽい行事なのだとか。
●奈良県
言わずと知れた高円山の「大文字」が、奈良県のお盆の送り火にあたります。観光名所のようになっていますが、実はご先祖様をお見送りするためのものだったのですね。
●島根県
お墓参りのお供え物に好まれる品として、島根県では団子が人気でもありますが、最近では「法事パン」なるパンもよく選ばれているようです。パン屋さんで購入できるものですが、包装紙が和風であったりと、きちんと感がでる見た目となっているのだとか。ご先祖様にとっても、目新しく嬉しいお供え物なのかもしれませんね。
●愛媛県
お墓参りの定番品といえばお花ですが、愛媛県には花串という飾りを供えるお盆の風習があるそうです。串に花がデザインされた紙が貼ってあるもので、故人の名前を書き入れたりもするのだとか。ご先祖様を偲ぶ、素敵なお飾りですね。
●福岡県
福岡県では現在でもかなりお盆を重要視している傾向があり、お盆期間中は親戚一堂に会して精進料理を食べるようにしている家庭が多いそうです。ご先祖様と共に過ごすようにするという精神が表れていますね。
●熊本県
お盆のお墓参りには、お店で買うのではなく、野に咲く花を摘んできてお供えする風習が熊本県にはあります。自分たちで「綺麗だな」と思い選んだお花をお供えするという、とても素敵な伝統ですね。
●宮城県
お墓からご先祖様をお招きするというスタイルは他県でもみられましたが、宮城県ではお墓の前で火をともし、それを消えないように持ちながら家までご先祖様を案内するという風習が残っています。お盆の期間中その火は絶やさないようにし、お盆の最後にまた同じようにして送り火とするのだそうです。かなり丁寧な送り迎えをしているのですね。
●長崎県
長崎県では何と、お盆のお墓参りには花火を持って行き、それを墓前で燃やして送り火とするのだそうです。しんみり感のない、かなり賑やかな送り火をするのですね。
●鹿児島県
お墓参りにはお花を持って行くものですが、鹿児島県のお盆の墓所は華やかさが違います。鹿児島県ではお墓参りを賑やかにする風潮があるようで、お盆の時もかなりの数のお花を生けてお参りするそうですよ。ご先祖さまも素敵なお花に囲まれて、きっと喜んでくれることでしょう。
共通している点はある?
先ほどお話しましたように、各地のお盆事情にはかなり違いがみられることが分かりましたね。とても細かな違いがありましたし、お盆は地域ごとに完全に別物、と感じてしまうかもしれません。しかしやはり根本はご先祖様への供養や敬いの気持ちを表すものということで、このように違いが目立つお盆でも、その精神は全国的に共通しているといえますね。
各地のお盆の過ごし方には特徴がありましたが、
- ご先祖様へのおもてなしを心がけている
- お供え物で気持ちを表している
という点はどこも同じであったのではないでしょうか。感謝や敬いの気持ちを形で表すという、その気持ちがご先祖さまにとって一番のギフトといえるのではないでしょうか。
まとめ
今回は日本各地のお盆の風習についてお話してまいりましたが、お盆はかなり地域性があるものということがお分かりいただけたのではないでしょうか。お住いの地域で育った方は、他県のお盆の風習に驚かれることもあるかと思います。しかしやはり根底にはご先祖様への敬いの気持ちがあり、その精神が地域それぞれで形を変えて表れているということなのでしょう。こちらの記事でご紹介した内容は、その県独特の風習の一つですので、もしかするとより興味深いお盆の風習があるかもしれません。お読みになった方はぜひ、他県出身者の方にお話を聞いてみてくださいね。