日本の四季の1つである夏。
猛暑に苦しめられる年もありますが、素敵なこともたくさんあります。
美しい気候がもたらす景色や美味しい食べ物、長期休暇や願いが込められた行事。
「夏」と聞いてあなたは何を思い浮かべますか?
シトシトと雨の降り続く日、汗が止まらないほど日差しが強く暑い日などでしょうか。
季節ごとの名前や由来、挨拶も紹介しますので、ぜひ覚えていきましょう。
心と体で感じた季節を言葉で表すことができたら季節の達人ですね。
立夏、おーいそろそろ夏が始まりますよ
夏が立つという名前のごとく、夏の始まりを意味するのが立夏(りっか)です。
初夏(しょか)と混同する人も少なくないですが、初夏は6月上旬頃、立夏はゴールデンウィークの終わりに当たる5月5日頃から20日頃までと、夏本番の少し前の時期を指します。
田植えが始まったり草木の緑が濃くきれいになっていく時期である立夏は、春の嵐が過ぎ去り天気が安定しているので梅雨前の衣替えに最適です。
お世話になった長袖を心地よい風でしっかり乾かしてしまいましょう。
「夏も近づく八十八夜~♪」という歌い出しの茶摘の歌をご存知でしょうか。
2007年に日本の歌百選にも選ばれているので聞いたことがある、学校で習ったことがある人も多いでしょう。
歌詞に出てくる「八十八夜」がこのシーズンに当たります。
「夏も近づく八十八夜 野にも山にも若葉が茂る あれに見えるは茶摘じゃないか あかねたすきに菅の笠」という一番の歌詞は本当に立夏の情景を綺麗に表現しています。
若葉の萌えるような緑の中で心地よい気候とお茶の葉が育った喜びに、鼻歌まじりで収穫をしている人が思い浮かぶでしょう。
想像するだけでお茶の緑とたすきの赤のコントラストが綺麗ですね。
他にも立夏の頃旬を迎える食材として空豆やラッキョウがあります。
青い野菜が特に美味しい季節です。
小満、ほっと胸をなでおろす心情と情景
初夏が終わると訪れるのが小満(しょうまん)という季節。
5月21日頃から6月4日頃を指します。
字面だけでは、どのような季節なのか想像しづらいですが、江戸時代の「こよみ便覧」には「万物盈万(えいまん)すれば草木枝葉繁る」と記されています。
盈万とは物事が満ち溢れているさまのことで、草木が大きく成長していく季節なのが分かりますね。
旧暦では春に蒔いた麦が穂をつける時期だったようで、少しずつ育ってきた、実ってきた作物をみて「ここまで育てば何とかなるだろう」とその経過に少し安心、満足する農民の心境が名前の由来という説もあります。
今でこそあまり目にしませんが「蚕(かいこ)」という虫をご存知でしょうか。
蚕を知らずとも絹糸の存在はよく知られていますよね。
その原料となる白い糸を吐き、繭を作るのが蚕であり、昔から人々の暮らしを支える大切な存在でした。
「おかいこさま」とも呼ばれ毎年この季節に盛んに葉を食べ、一か月ほどすると繭を作り始めたそうです。
枝葉が繁り始めれば虫も活発に動くようになるのは自然なことで、季節をよく考えた産業ですね。
小満が旬に当たる食材は、アスパラガス、らっきょう、さくらんぼ、アサリなどです。
さくらんぼやアサリは食べるだけでなくレジャーとして採りに行くのも楽しいでしょう。
芒種、淡い色の夏がやってきます
心地よい気候の立夏、小満と続いて6月5日頃から6月20日頃までが芒種(ぼうしゅ)と呼ばれる時期です。いよいよ蒸し暑さを感じるようになり、安定した天気が崩れ梅雨が訪れます。
現代では6月に当たる芒種ですが、旧暦では5月を指す名前だったため、この時期の雨を「五月雨(さみだれ)」その合間に晴れることを「五月晴れ(さつきばれ)」と言います。
少しややこしいですが、間違えずに使えるよう気をつけたいですね。
梅雨という名前には「梅が熟れはじめる頃にふる雨」という意味があります。
五月雨=梅雨であるのでこの時期の雨はどちらの表現でも問題ありません。
ジメジメとして洗濯物も乾きませんし、通勤通学が少し億劫になる時期ですが、ふと周りを見てみると、紫陽花(あじさい)が咲き誇り真っ青だった梅も黄色く熟し始めているでしょう。
田んぼの中では春に目を覚ました蛙が雨を喜び鳴き通します。
原色で生命の力強さを感じる景色を五月雨が煙らせますが、その淡い色合いの景色も心を落ち着かせてくれる大切な存在です。
芒種という名前の由来も見ていきましょう。
名前にも使われているこの漢字「芒(のぎ)」とも読みます。
稲や麦などイネ科植物の先端にある棘状の突起を指す漢字です。
稲や麦の種まきにふさわしい時期に由来します。
漢字の意味がわかると情景が思い浮かびやすくなる名前です。
種を蒔いたら収穫まで農家さんは休む暇もなくなるので「これからゆっくりする暇がないくらい忙しくなりますよ」という意味もあるそうです。
当たり前のようにいただいている麦やお米ですが、農家さんの努力あっての物ですね。
願いがたくさん、端午の節句
立夏には、国民の祝日にもなっている「こどもの日」が含まれます。
それに合わせて「端午の節句」のお祝いをする家庭も多いのではないでしょうか。
こどもの日と端午の節句にどのような意味があるのか、何をするのかを解説していきます。
歴史が古いのは端午の節句です。
端午の節句とは五節句とよばれる区切りの1つであり、男の子の健やかな成長を祈願する日です。
別名「菖蒲(しょうぶ)の節句」とも呼ばれます。
中国から伝わってきた文化と日本で作り上げられた文化が融合したものですが、5月は季節の変わり目であり体調を崩す人が多いことから、中国では「毒月」と言われていました。
よって、薬草として親しまれていた菖蒲の葉を軒に飾って無病息災を願ったそうです。
その頃日本にも「五月忌み」という古くからの行事がありました。
田植えが始まる前に若い女性が家や神社にこもって穢れを払い、更に厄災を払い除けるために菖蒲の葉やヨモギを軒に飾っていました。
当時の端午の節句は女性が主役だったのです。
現代に伝わるように男の子の健やかな成長を祈願する日になったのは鎌倉時代からなのですが、そのキーとなったのが菖蒲でした。
鎌倉時代といえば武家社会のはじまりです。
菖蒲が剣の形に似ていること、「菖蒲=尚武=勝負」との語呂合わせから男の子と結びけ、男の子のお祝いの日として現代まで伝えられてきました。
時は流れて1948年、「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」という趣旨の元、国民の祝日である「こどもの日」が制定されました。
現在のこどもの日は特に性別のくくりはなく、男女ともに子供の健やかな成長を祈願、お祝いする日とされています。
しかし、趣旨の中にある「母に感謝する」というのはあまり知られていないかもしれませんね。
端午の節句でもあるこどもの日といえば、空には鯉のぼりがおよぎ、家の中には兜が飾られ、柏餅を食べたり菖蒲湯に浸かるのが定番ですが、その1つ1つに願いや意味が込められています。
柏は若葉が出た後に古い葉が落ちる様子から、子孫の絶えない縁起の良い植物と言われており、柏餅は子孫繁栄の縁起物とされています。
鯉のぼりは川の強い流れにも屈しない鯉のように力強く生きてほしいという願いが込められています。
兜は攻撃から体を守るためのものであり、子供のからだを守り元気に育てたい思いが詰まっています。
菖蒲湯は菖蒲のすがすがしい香りが厄災や病気を払いのけるといわれています。
大切なわが子を思う気持ちが形となって現れているのがよく分かります。
趣旨をよく理解してこどもの日を迎えたいですね。
もっと細かに分けられる日本の四季
四季を24つに等分した節気の名前や意味を解説してきましたが、1つの節気を初候(しょこう)次候(じこう)末候(まっこう)と更に3つに分けた七十二候(しちじゅうにこう)というものがあります。
次に紹介する時候の挨拶で活用するので覚えたい表現です。
難しく感じる人もいると思いますが植物や動物の動きを短文にした表現なので楽しく覚えられますよ。
今回は立夏から芒種にかけて紹介しますがおもしろそうと感じたら他にも調べてみてください。
立夏の七十二候
・初候(5月5日から9日頃)「蛙始鳴(かわずはじめてなく)」
・次候(10日から14日頃)「蚯蚓出(みみずいづる)」
・末候(15日から20日頃)「竹笋生(たけのこしょうず)」
小満
・初候(5月21日から25日頃)「蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)」
・次候(26日から30日頃)「紅花栄(べにばなさかう)」
・末候(31日から6月4日頃)「麦秋至(むぎのときいたる)」
芒種
・初候(6月5日から9日頃)「螳螂生(かまきりしょうず)」
・次候(10日から15日頃)「腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)」
・末候(16日から20日頃)「梅子黄(うめのみきばむ)」
いかがですか?
節気の名前よりももっと具体的な表現になっているので、より季節の様子が想像できますね。
手紙が書きたくなる、時候の挨拶マスター
ビジネスシーンでも日常でも欠かせない挨拶ですが、「おはようございます」「こんにちは」「こんばんは」と私たちは当たり前のように時間帯で使い分けています。
それと同じように季節ごとの挨拶があるのを知っていましたか?立夏から芒種にかけて上の七十二候を用いてビジネスとプライベートで使える季節の挨拶を例文と共に紹介していきます。
ビジネスシーンでは特に詳しい季節の挨拶は不要です。
立夏には「拝啓(謹啓)立夏の候」など「季節の名前 の候(折またはみぎり)」で季節の名前が時候の挨拶になるのでそれ以上は書きません。
例えば「拝啓 立夏の候 格別のご高配賜り、厚く御礼申し上げます。」
「謹啓 立夏の候 ○○様にはますますご健勝のこととお慶び申し上げます。」など。
立夏の部分を七十二候の名前にしても問題ありませんし素敵です。
プライベートの手紙ではもう少し砕けた表現でも良いです。
その季節が想像できる挨拶で始めましょう。
立夏の初候の季語は鯉のぼり、蛙、藤、端午の節句などです。
・例文:鯉のぼりが空高くはためく季節となりました。
・例文:苺の赤みが日々増していく今日この頃。
末候の季語は筍、三社祭り、筍など。
・例文:筍が顔を出し始める季節となりました。
小満の初候の季語はキス、てんとう虫、蚕空豆など。
・例文:てんとう虫が元気に飛んでいる今日この頃。
次候の季語は五月晴れ、紅花、潮干狩り、アサリなど。
・例文:アサリが美味しくなっていく季節となりました。
末候の季語は衣替え、四十雀(しじゅうから)、麦など。
・例文:四十雀の鳴き声を聞き、初夏を感じる今日この頃。
芒種の初候の季語はあいなめ、らっきょう、カマキリなど。
・例文:あいなめの美味しい季節となりました。
次候の季語はトマト、蛍、暑中見舞いの候、紫陽花など。
・例文:紫陽花が日に日に色づいてきました。
末候の季語は梅、父の日、梅雨、栗の花など。
季節の挨拶が終わったら次に手紙を送る相手やその家族の安否を気づかう一文を添えましょう。
「梅雨明けが待ち遠しい日々が続きますが、いかがお過ごしですか。」など。
受け取った相手が喜ぶ素敵な手紙が書けるようになりたいですね。
まとめ
以上が立夏、小満、芒種の由来や情景とそれをイメージさせる季語です。
蚕や紅花摘みは現代ではあまり見かけず、季節の代表としては想像しづらいかもしれませんが私たちのご先祖様が生活していくために必要なものだったのは確かです。
こどもが主役のこどもの日も、遡れば込められた願いがたくさんありましたね。
ご先祖様が紡いでくれた生活に感謝の思いを馳せ、草木の成長や家族が健やかに過ごしている日常を歓び過ごしたいですね。