『天地始粛』という言葉を聞いたことがありますか?なんて読んだらいいのでしょうか。『粛』は難しい漢字ですよね。音読みは分かるけれど訓読みはあまり聞きませんよね。『天地始粛』は、七十二候の1つで『てんちはじめてさむし』と読みます。季節の移ろいを少しずつ感じられるころという意味です。どんなところに次の季節の秋を感じられるか、この時期ならではの特徴をご紹介します。あわせてこの時期の行事や風物詩・食べ物を紹介します。
天地始粛は何て読むの?
『天地始粛』という言葉を知っていますか。あまり聞きなれない言葉ですが、これは『てんちはじめてさむし』と読み、72候という日本に古くからある季節の特徴を名称に取り入れる暦の第41番目の候に当たります。
『天地』は、大空と大地という意味があります。次に『粛』は、音読みは『しゅく』、訓読みは『つつしむ』と読み、つつしむ、かしこまる、静まり返っている様、寒さのために縮む、弱まるという意味があります。そこから『大空も大地も暑さが弱まり始めるころ』となり、夏の暑さが落ち着いて秋の気配が感じ始められる時期で24節気の処暑の次候です。72候が記載されたカレンダーは、あまり多くないために聞きなれない方が多いかもしれませんが、1年を72個の季節に分け、季節ごとの天候、植物、鳥や虫の様子をそれぞれの季節の名前として付けています。1年を72個の季節に分けているため、1つの季節は5日間で、自然の変化を細かく表しています。これに対して24節気は、カレンダーにも大抵記載されていますし、季節の行事と合わせて暦の上で春になる立春や、同じように夏になる立夏、立秋、立冬などは、ニュースでも紹介されることも多いので馴染みがありますね。夏至や冬至も同じく、24節気の1つです。24節気の1つの節気は15日間で72候の3つの季節を初候、次候、末候として割り当てています。
『天地始粛』は、24節気『処暑』の次候で、初候は『綿柎開』で『わたのはなしべひらく』、次候は『天地始粛』で『てんちはじめてすずし』、末候が『禾乃登』で『こくものすなわちみのる』です。
24節気や72候は、明治の初め(明治6年、1873年)まで使っていた太陽太陰暦の旧暦と実際の季節のズレを修正するために使用されてきました。24節気も72候も元は中国から伝わってきましたが、気候の違いなどから日本独自の暦に変化しているところもあります。
どんな時期?処暑との関係は?
『天地始粛』は、一体どんな時期なのでしょうか。72候の41番目で8月28日~9月1日頃です。この頃になると夏の暑さも収まり始め、夕方に今まで聞こえていたヒグラシから秋の虫の鳴き声変わってくるなど少しずつ秋の気配が感じられることが、『天地始粛』の由来です。
24節気の処暑は、冬至から3分の2年(243.49日)後を指し8月23日頃です。なぜ8月23日頃かというと24節気が地球から見た太陽の通り道・太陽黄道を24分割して日にちを割り当てるため年によりずれが生じるからです。また、西洋占星術ではこの日からおとめ座が始まります。
処暑は、暑さが峠を越えて後退を始めるころで、暦便覧では『暑い陽気がとどまっているけれど、その暑さが後退し始め段々と暑さが収まる日』とされており、統計的に台風が到来するのが多い日でもあります。
立秋のころは、まだ日中は猛暑が続いていることが多いのですが、処暑のころになると気温が下がり始め、日中は暑くても朝夕には空気から熱気が取れて涼しさを感じられる日が増えてきます。空を見あげると、もくもくとして厚みのある入道雲ではなく薄い筋状の巻雲や、綿菓子のような小さい厚みのある雲が連なるうろこ雲といわれる巻積雲が見られます。こんなところでも夏とは違った空に季節の移ろいを感じられますね。
どんなところで季節の変化が感じられる?ポイントを紹介!
『天地始粛』の時期は、どんなところで季節の変化が感じられるのでしょうか。目で見えるものとしては空、とりわけ雲の形です。雲の形がうろこ雲といわれる形に変わってきますね。日中の暑さは続いていてもふと空に目を向けると、空が高く見え雲も筋状に薄く伸びています。夏には見られない巻雲です。このほかには、魚の鱗がたくさんあるようなうろこ雲、いわしが群れをなして泳いでいるようないわし雲、サバの背中のようなさば雲などの巻積雲が、天気が崩れる前に見られます。
さらに涼しい空気の原因が天気図を見るとわかります。このころになると乾燥した冷たい空気のシベリア高気圧が暖かく湿った太平洋高気圧とぶつかり、東日本付近で前線が発達して南下する秋雨前線と呼ばれる停滞前線が少しずつみられはじめます。夏の間には聞かなかった言葉が天気予報で聞かれるようになるのもこの時期からですね。
音といえば、聞こえてくる虫の鳴き声が変わってきます。立秋のころは、夏の虫の中でも少し涼しくなってから鳴くヒグラシの鳴き声がしていましたが、段々とマツムシや鈴虫などの秋の虫の鳴き声に変わってきていますね。『チンチロリン』と鳴くマツムシの鳴き声は、松林を渡る風の音、『リンリン』と鳴く鈴虫は鈴の音といわれていて、どちらも童謡『むしの声』で『秋の夜長を鳴き通す』と歌われているように夜行性の昆虫です。
この時期の行事『二百十日』とは
『天地始粛』の終わり、9月1日ころには雑節の二百十日があります。これは、立春から数えて210日目のことで、台風の特異日とか風の強い日が多いとかいわれ、農作物が被害を受けてしまう厄日とされていますが、統計的にはそのようなことはないともいわれています。
この時期は、稲が結実する大事な時期なので警戒を呼び掛ける意味があったのではないかと考えられています。農作物を風害から守るための祈願として『風祭』も行われます。二百十日の3日前に行われる奈良の大和神社『風鎮祭』や、富山県八尾町の『おわら風の盆』。この『おわら風の盆』は、風を鎮めて豊作を祈願することと盆踊りが融合したお祭りで300年の歴史があります。独特の雰囲気のあるお祭りの為、毎年20万人以上の人が訪れるお祭りなのです。
他には、二百十日前後に行われる風鎮祭としては、熊本の高森風鎮祭、福岡の貴船神社風鎮祭、山口県下関の川北神社風鎮祭、新潟の彌彦神社風神祭、兵庫県の伊和神社の風鎮祭などが有名です。
また、9月1日といえば、1923年9月1日に発生した関東大震災にちなみ『防災の日』に制定されています。そしてこの日を含む1週間が防災週間とされていて、防災意識を高める取り組みが各地で行われているのをご存知ですか。自治体や学校では避難訓練が行われるのもこの時期が多いですね。自治体からシェイクアウトといって、一斉に防災行動をとる訓練への参加の呼びかけもありますので、ぜひそうした訓練に参加し防災意識を高めたいものです。また、各家庭で用意している防災備品についても賞味期限や使用法を確認するのにもよい機会ですね。
この時期の風物詩といえば?食べ物はなにがある?
季節の移ろいを詠んだ歌といえばやはり「古今和歌集」にある藤原敏行朝臣の『秋きぬと目にはさやかに見えねども』がありますね。 この歌では続けて『風の音にぞおどろかれぬる』と詠んでいます。秋が来たとははっきりとは見えないけれど、なんといっても風の音に秋を感じられます、と詠んでいて季節の変化は見た目からではなく空気の微妙な変化を風を通して感じているのですね。季節の移り変わりが目に見えてくるのは、もっと先で少しずつ見えないところから変化していくのだなあと考えさせられる句ですね。
そして、処暑そのものが秋の季語になっています。
また、この時期の風物詩として大曲の全国花火競技大会があります。全国の花火師が技を競う花火大会で8月の第4土曜日の夏の大会を中心に年4回開催されています。この競技大会には昼の部と夜の部があり、総合点で競います。今では昼の花火は大曲の花火しか見ることができないそうで光の代わりに色煙を使って表現するのが一般的な花火との違いです。
さてこの時期に旬を迎える食べ物としては、サンマとナス。この時期のサンマが一番脂がのっておいしいともいわれています。その他にもこの時期に旬を迎えるイチジク、梨があります。季節の恵みをたっぷり受けた旬の食材を楽しみたいですね。
まとめ
- 天地始粛は、『てんちはじめてすずし』と読み、空も大地も暑さが弱まり始める季節という意味。
- 天地始粛は、72候の第41番目で24節気の処暑の次候。
- 時期は例年8月28日~9月1日頃。
- 朝晩の空気が涼しくなり、虫の声も夏の虫からマツムシや鈴虫など秋の虫に変わり始めます。
- 雑節の二百十日は台風の特異日ともいわれ、各地で風祭が行われています。
天地始粛は、まだ日中は暑い日が続きますが、朝晩が涼しくなり季節の変化を感じられる頃です。空を見上げると秋の特徴的な筋雲やうろこ雲を見ることができる時期でもあります。風や空の変化に目を向けると今まで気が付かなかった変化に気が付くことができるかもしれませんね。